夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
冷静ではいられなかった。


あたしは感情を制御することができなかった。


暴走だ。


「だって、あたしはっ」


光貴の肩を軽く突き飛ばしてしまった。


「あたしなりにすっごい勇気出して、やっと補欠のアドレスゲットしたんだもん!」


ガサツな女なりに、精一杯の勇気を出したんだ。


「翠……」


よろけた光貴が目を点にして、あたしをじっと見つめた。


ガサツでズボラで気性の荒いあたしだから。


何でも当たって砕けろ根性で、何でも乗り切ると思われがちだけど。


あたしだって、ただの人間だ。


怖くなって、腰が引けることだってある。


特に、補欠が絡むとそうだ。


補欠とスムーズに会話が成り立つようになって、あたしは怖さを知った。


アドレスを聞いたりしたら、うざがられるんじゃないかって。


それがキッカケで気まずくなるんじゃないかって。


不安で不安で。


やっとここまで縮めた距離が一気に開いちゃうんじゃないかって。


怖くて、なかなか聞くことができなかった。


でも、そんなことを恐れていたら恋なんかできないって、そう思ったから。


欲しくて、欲しくて。


アドレスが欲しくて。


もっともっと、補欠に近付きたかったから。



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