夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「翠ちゃんの気持ち、知らなくて」


でも、と涼子さんが弾かれたように顔を上げた。


「夏井くん、付き合ってる子とか居ないのよね?」


その視線はあたしを突き破ってしまうほど真っ直ぐだった。


「翠ちゃんと夏井くん。付き合ってるわけじゃないんだよね?」


「へ?」


その真っ直ぐ過ぎる清い瞳を、あたしは恐れたのかもしれない。


反らすことができなかった。


「それは……そうだけど」


「だったら、まだ、私にもチャンスはあるってわけね」


そう言ってにっこり微笑む彼女を見て、自分が焦っていることに初めて気付いた。


突然現れた美人で清らかなライバルを、あたしはこの瞬間に、初めて恐れた。


「私も、勇気出すことにした。翠ちゃんみたいに」


「へっ」


「これは」


とふたつに折り畳まれた紙をポケットに突っ込んで、涼子さんはすずしげな表情で続けた。


「自分で渡すね。明日、また来ます。お邪魔しました」


ぺこりと丁寧な一礼をして去って行ったその後ろ姿は、満開の桜が吹雪くように清楚だった。


涼子さんがお涼なら、こっちは坂本龍馬だ。


「まずいぜよ」


焦りが口から漏れる。



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