夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「スンスンスン」


道端を嗅ぎ回る犬のように、あたしは辺りを嗅ぎ回った。


バニラエッセンスのような、甘ったるい残り香。


涼子さんが去ったあともしばらく、豊満な甘い香りが漂っていた。


人は見かけによらないものだ。


外見はひ弱そうでか弱そうなのに。


涼子さんはたぶん、芯の通った女なんだと思う。


3年生といえども、たったひとりで1年生の教室に乗り込んできた。


夏井くん、なんてさらりと口にして。


夏井くんのファンです、と正々堂々と公言した。


あげくには宣戦布告して帰って行った。


あたしが対抗意識を全開にしても、ひるむことなんてさらさらなくて。


逆にやんわりと、強烈な宣戦布告をされてしまった。


きっと。


いや、絶対。


平成のお涼もなかなか手強いぞ。


なぜだか、そう思いだしたらもう歯止めが効かなくなった。


気持ちばかりが焦る。


あたしは考えが甘すぎたんだ。


「こりゃまずい。まずいラーメンより……まずい」


ぶつぶつ呟きながら、あたしは机の周りをうろうろ徘徊し始めた。


―明日、また来ます


彼女の言った一言が、頭をぐるぐる駆け巡る。


明日、また来るのか?



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