スターフィッシュ‼︎

「カナタちゃん、駄目! 何してるの!? 危ないよ!」


あたしの声は固いトイレの壁に反射し、エコーがかかる。


腰が引けたままのあたしは、そのカッターを奪おうと弱々しく手を伸ばしたが――


「おめーの歌なんかキモイんだよ! 調子に乗ってんじゃねーよブス!」


カナタちゃんはそう叫び、

そのカッターナイフを自分の左手首に当て、勢いよく引いた。


「や……やめて……」


その手首には鋭い線が刻まれ、少しずつ赤い血が滲み、溢れだしていく。


切られているのはカナタちゃんの手首なのに、

あたしの心の中までズタズタに切り裂かれたような気がした。


白い肌に滴るその鮮明な赤が、床のタイルに1滴、落ちる。

同時に、あたしは足から力が抜け、その場に腰をついた。



その時――


バタン、と勢いよく後ろの扉が開き、


「おい! 大丈夫か!?」


と、王子の声が降ってきた。


あ……王子……。


気がつくと、あたしとカナタちゃんの間に入り、

「お前、何やってんだよ!!」

とカッターナイフを奪っている王子の後姿があった。


「あ、貴也様。あの、あたし……」


「保健室行くぞ。お前も後から来い」


次から次へと血が滴り落ちる手首を上にしながら、王子はカナタちゃんを扉の外に連れ出す。


あたしの横を通り過ぎる瞬間。

カナタちゃんが恋する乙女のような笑顔を浮かべていたのが印象的だった。


薄暗いトイレの空間が、再び静まり返る。


「……っ、……っく」


言葉を発しようと思っても、嗚咽のような喉の痙攣があたしの邪魔をしていた。




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