勇者様と従者さま。
 アーサーの後ろで、ぎい…と音を立てて扉が閉まった。

 真っ暗になって何も見えない。何度か瞬きして目を慣らした。

 光が入らないため、日中とは言えかなり暗い。だが、広く豪奢なつくりの部屋、質のいい家具、立派なシャンデリアにふかふかの絨毯など、こんな田舎にあるにしてはかなり上等な屋敷だと伺えた。残念ながら、埃と蜘蛛の巣だらけだが。

「暗い…」

 アーサーは思わずこぼした。

 すると、エヴァはにっこり笑う。

「だからシュリがいるんじゃないですか」

 エヴァがシュリを抱き寄せた。その小さな体は…淡い光を纏っている。

 出会ったときも、薄暗い聖堂の中で光をまとうシュリは目立った。

「なるほど」

 思わず納得するアーサー。

「さあ、シュリ、もっと強く光ってくださいな。まわりが見えるくらい」

「…あるじ、わかっておるのか?我は聖剣なのだぞ、松明ではないのだぞ」

 シュリは嫌そうな顔をしつつも白銀の光を強めた。

 部屋が隅々まで照らされる。

 明るい光に照らされると、部屋の内部は思った以上に傷んでいた。財産狙いの空き巣でも入ったのだろうか。

 三人がいるのはエントランスホールで、左右に廊下、目の前には大きな階段がある。その踊り場には大きな額があり、肖像画だとは思われたが、損傷がひどく、はっきりしなかった。


「…どうするんだエヴァ様」

 アーサーが聞く。

 エヴァはしばし左右を見渡して考えた。

「…やっぱり下の階からですよね」

 右と左、どちらにしようと迷っていると、突然上の階から大きな音がした。

 三人は顔を見合わせ、誰からともなく階段に走った。

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