勇者様と従者さま。
「…そんなこと」

 …わかるわけがない。

 アーサーは黙り込む。

 シュリはこれ見よがしにため息をついた。


「少しは頭を冷やせ。…それでだな、先の魔物だが」

「ああっ!」

 シュリが話しはじめた途端に声をあげたのはエヴァ。

「…どうした、あるじ」

「じ、従者さまが…いませんっ」

「なんだと!?」

 珍しくシュリも声を大きくする。

 エヴァの指の先には…ただ、暗い廊下が広がっているだけだった。

「従者さま、なんて足が速いんでしょう…!」

「たわけ!」

 ずれた視点で驚いているエヴァを一喝して、シュリは腕を組んだ。

「つい数秒前までここにおったのだぞ。…まさか魔物に連れ去られたか…ううむ、しかし我の知る限りあやつは…」

「シュリ、全然わかりませんよう」

 シュリは眉間にしわを寄せてぶつぶつとつぶやきはじめる。

 当然ながらエヴァは情けない顔でシュリの説明を期待するだけだ。


「ん?…説明が要るのか」

 シュリはひとしきりつぶやいたあとでエヴァのすがるような視線に気付いたらしい。

 小さな体に似合わぬ尊大な仕種で息をつく。

「…仕方ないな。つまりな…先程の魔物、あやつは恐らく我の知っている魔物なのだ。だがあやつは、人を隠すような能力は持っていなかったはずだ。あやつの力は…」

 目を真ん丸にして聞くエヴァ。

 だが突然シュリは言葉を止めてあたりを見回した。

「…シュリ?」

「…どうも、今日は最後まで喋れぬさだめらしいな。…あやつが近くにおる」

「えっ」

 エヴァは息を呑んだ。

「え、どうしましょう、準備しなくちゃ!…いえ、それよりも!結局従者さまはどうなったんです!?」

「わからぬ。…だが、悠長に考えておる暇はない」

「あ、シュリ、待ってください!シュリー!」

 その言葉を最後に、白い子供の姿が掻き消える。

 エヴァは、不安に押し潰されそうになりながら、腰で重みを増した聖剣を握りしめた。

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