ホワイト・メモリー
「小林さん、おはようございます。どこのミーティングルームもいっぱいでここしか空いてなかったので、居心地は悪いかもしれませんがご容赦下さい」

謝ってもらう必要はない。大企業の応接室になんて滅多に入れるもんじゃないのだから、むしろ感謝したいくらいだ。付け加えて、重厚な扉の向こうから現れたのが杉山だったのでさらにラッキーだと功は思った。

「あ、そうなんですか。ところでどんなご用件でしょうか」

「用件というほどの用件ではないのですが、昨日の研修のときに小林さんが田中主任に突っかかったということを耳にしたものですから」

それにしてもなんなのだろう、この人事部っぽい喋り方は。功はおかしくて仕方がなかった。実際、人事部の人間なのだからそれはそうなのかも知れないが、どうしてここまで役を演じようとするのか不思議で仕方がなかった。
コンサルタントがコンサルっぽい喋り方をするのも、電車の車掌が車掌っぽい喋り方をするのも、会社の受付嬢がお嬢っぽい喋り方をするのも、そうしろと教わった訳でもないだろうに、なぜそうなってしまうのだろう。ドラマなどの見過ぎなのかなんなのか、人間は勝手なイメージでその役を演じようとする。
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