ホワイト・メモリー
翌日、功は研修の前に応接室に呼び出された。呼び出したのは、功の代の採用担当を努めた人事部の杉山だった。
人事部というと一般的に会社の中で最も権力のある部署の一つであり、人事部の人間には愛想良くしておかないと将来の出世に影響するという印象がある。しかし功にとってはそんなことはどうでも良かった。入社したばかりの新入社員が将来の出世のことを気にして、人事部の人間に媚びるなんてみっともないと思っていたし、それ以前に出世自体に興味がなかった。まして、杉山は人事部でも下っ端の人間で、新入社員に対しても腰が低く、いつも自信なさそうに話をするような人だ。
噂に聞いた話だと、杉山は功と同じ早稲田大学出身で法学部を一年留年して卒業し、父親のコネでこの会社に入社したような人間らしい。そんな人間なのだから当然人事部に在籍する理由も父親の見栄によるものに違いない。杉山は父親の影に隠れて大きな顔ができないのである。
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