ホワイト・メモリー
それから杉山は「採用を担当した者として」だのなんだのと建前をつらつらと言い並べて、最後に九時を回った時計の針を見て「じゃ、もう時間もないから」と締めくくった…つもりだろうが、功は間を開けずにこう言った。

「そうですね。時間がありません」

功は研修が九時から始まることも、時計の針が九時を過ぎていることも承知の上で、この捨て台詞を言う楽しみのために、杉山の話を最後まで聞いていたのだった。
無論、杉山だって採用を担当するような人事部の人間なのだから研修が始まる時間を知らないはずがない。スケジュール通り行動しなければならないことは、杉山自身が新入社員に言ってきたことでもある。
功は、立ち尽くす杉山の後ろを通って、重厚な扉の脇で軽く頭を下げ、静かに部屋を出た。
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