ヒトノモノ
ランチを終えて、田中君の買い物を済ませる。
夕飯も一緒に・・と誘ってくれたけど、そんな気分では無かったからそのまま家まで送ってもらった。
「送ってくれてありがとう・・」
そう言って車を降りようとすると、腕をガシっと掴まれる。
「・・ごめん。待って・・」
「何?どしたの?」
田中君はあたしの腕を掴んだまま、あたしの目を見続けた。
・・近くで見ても綺麗な顔してる・・・
あたしがもし啓介と付き合ってなかったら、きっと田中君に惚れてたかも。
そんな事を考えていたら、田中君がゆっくり口を開いた。
「あのさ・・俺、入社した時から安達の事が好きだったんだ・・・」
「・・え・・」
思わぬ展開にあたしは固まった。
「安達・・今彼氏いないって言ってたよな?」
「う、うん・・」
「もしよかったら・・俺と付き合ってくんない?」
「・・・え・・・?」
「俺たちもう24だし・・重い話になるんだけど・・・その・・結婚を前提とした付き合いって言うか・・軽い付き合いじゃない付き合いがしたいんだ。だから・・・返事は急がないから・・・」
あたしは頭の中が空っぽになった。
今まで考えた事もない言葉が田中君から発せられたから・・・
・・・《結婚》・・・
「安達??」
「・・あぁ・・ごめん・・ちょっとビックリして・・・うん・・ちょっと時間頂戴・・」
あたしはそう言って車を降りた。