magnet


待っている間、驚く程無で時間を感じる事はなかった。何を言おうとかどうしようとかも考える事もなかった。


もう決めたからだろう。もう覆しもしない、ごまかしもしないと。


「先輩」


朔が来ると真っ直ぐに見つめて歩み寄って、目の前で足を止めると朔は何かを察したように気まずそうな表情を垣間見せた。


「全部……聞いたんですか?」


「聞いたよ。だから、朔とは別れようと思う」


本当に挨拶のように円滑に出た言葉に自分でも驚く。


息を飲む音と目を見開くのは同時だったと思うが、今はどうでもいい。


「は?ちょっと待っ…」


「何も聞きたくない。私、中途半端も何も言わないのも嫌いなんだよ。それに、あんたは私を見てない。分かってない。――もう、別れよ」


負けると告げられるのが嫌でそれだけ言って踵を返した。


「まだ話終わってない」






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