magnet


一体この短時間に何があったのだろうか。いやそれよりも、だ。


冷蔵庫の前に移動するのを眺めながらどう切り出したものか考える。


けれど、タイミングよく相手が徐に話始めた。


「……実は先輩が階段から落ちる前に篠田に説教されて……あんなに怒った篠田は初めて見ました。で、先輩が来てたって聞いて追いかけないと。って、何て言うか、思うよりも前に走ってました」


そして、冷蔵庫から氷を取りだしタオルに巻いて頬にあてる。冷たいのか一瞬キュッと目を閉じた。


まだ、私の口は開かれない。


「仁先輩にはさっき一言言われました。先輩をちゃんと見てあげてって」


ガシャッと氷と氷がぶつかる音が一度鳴る。


「愛架先輩には、色々言われて聞かれました。沙織さんの事とか先輩の事とか。で、その後に不意討ちで殴られました」


力なく笑う。


笑う顔も久々だった。



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