モテる弟をもつ双子の姉の地味子の物語

なんだろう。

沢田の近くにいると安心する。

適当で、何を考えているか良くわからない人間だが

彼は優しい。

気づけば遥は口を開いていた。

「俺たち、どうすればいいのかな。」

ここにきて初めて不安を口にした。

「したいようにすればいいさ。」

「・・・。」

俺には何も関係ない、と沢田は言う。

「適当だよな、沢田さん。」

「ああ、それで家内にも逃げられた。」

「納得。」

は、と鼻で笑うと沢田はカチンと来たようで遥を睨む。

「お前なァ、俺が店長なんだぞ?」

「そうだっけ?」

「この、」

沢田は遥を一発殴ろうと手を伸ばすが、それを簡単に避けた。

そこから風呂場で追いかけっこが始まる。

ばしゃばしゃと音をたてて逃げ回る。

「テメェ双子弟・・・一発殴ってやる。」

「!?」

遥は彼が本気だと感じた。

「うわっ!」

ス、

顔の真横に沢田の拳が通る。

「自慢じゃないんだがな、俺は昔ボクシング部に所属していたんだ。」

「マジかよ・・・。」



さあ観念しろ、と沢田はがしりと遥の腕を掴む。

冷や汗が流れた。


「遥ー、バスタオルここに置いておくよ?」


「う、海っ、」

海の声が聞こえて遥は焦った声をあげた。

「遥?」

不自然な返事に気になった海は

少し悪いと思いながら脱衣所のドアを開ける。

「何かあった・・・・の、」

ぴたり、

海は目の前の光景を見て硬直した。

沢田が遥の腕を掴み、殴りかかろうとしているのだが

海には沢田が遥を襲っているように見えた。

「っ、す、すいませんでした!」

「お前、勘違いすんなよ!!」

バタンと乱暴にドアを閉めた海に叫んだ。


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