エルタニン伝奇
その気持ちは、わからないでもない。
おそらくラスは、誰にも心を開かなかったが、いつもコアトルがいたから、さほど寂しくはなかったのだ。

「お前にも、コアトルがいたのだろう」

今目の前の姿がコアトルの身体ということは、どういうことなのか。
ラスの呟きに、サダクビアは初めて、少し悲しげな表情になった。

『触れられなければ、傍におらぬのと変わらぬ』

サダクビアは、氷の中に閉じ込められていた。
コアトルがついていても、両者の間には、分厚い氷の壁があるのだ。

『封じられて五、六年経ったあるとき、わらわは思いの丈を、己を縛る氷にぶつけた。・・・・・・案外簡単に砕けたぞ。柱からは解放されたものの、ここをそのままにしておくわけにもいかぬじゃろう。初めのころは、たま~にじゃが、わらわがちゃんとここにおるか、確認しておったようじゃしのぅ?』

きろりとサダクビアが、サファイアの瞳でサダルスウドを見上げる。

「わざわざ、こんなところまで来ていたというのか?」

訝しげに言うラスに、サダルスウドは頭(かぶり)を振る。

「まさか。ここは我々にとっては、忌まわしき地。簡単には辿り着けぬよう、幾重にも呪を施した、結界の地です。私は、自分でこのサダクビア様を封じた責任もあり、結界の番人のようなつもりで、時折サダクビア様の気を探り、結界内にあるかを確かめていたのです。しかし、それは相当な力を要します。封じた当初は私もまだ現役でしたし、力も体力もありましたが、サダクビア様を封じること自体にも、国から気を探るのにも、相当な力を使ったため、急激に私の力はなくなり、身体も衰えてしまいました。それ故、結界が破られたことにも気づけずいたのです」
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