君が愛した教室

放課後、会議室に向かう先生たちとすれ違った。

その中に、もちろんいた。
険しい顔ぶれの中に1人。
眩しい笑顔のその人が。

「さようならー。」

高鳴る気持ちを抑えて、平然を装って言った。
すると、変わらない笑顔でこっちを見て「さよなら。」って、返してくれた。

「あのっ……!」

すれ違ってから言い忘れた言葉を吐き出したけど、私の小さな声では届かなかった。
でも………

「はな……せた………!?」

それだけで私の気分は幸せで満たされた。
実際、"先生"と言葉を交わした事などなかった。
週に1回、授業に向かう姿を窓越しに見るだけだった。

名前も、歳も、どの教科担当だとか、どんな性格だとか…
私は"先生"を何も知らない。


それでも私は、"先生"が好きだった。

何も知らない人なのに
いつしか本気で恋をしていた。



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