君のためにできること
「岳くんありがと。」

「えっ…」

突然の謝礼に僕は戸惑いの顔をしてしまった。お礼を言われるどころか僕が改めて謝らなければならないのに。それでも僕は何も言い返せないでいた。

「彼と少し距離を置くことにしたの。私自身も音楽に集中できるし、彼もわかってくれた。ちょっと辛いけどね。」

「そうなんだ…それはよかったね。」

僕はありきたりな言葉でしか返すことしかできなかった。
その傍ら、脳裏ではあの時、君の胸の上で泣いたあの時のことはやはり幻だったのではないかとさえ思っていた。
君に恋人がいたことを心の奥底に封じていたのかもしれない。心ではそのことが呼び起こされると同時に何かが崩れさるようなそんな感覚に襲われていた。

このことで顔に出ているとさえ思ってしまった僕は悟られることを恐れて、誤魔化そうと別の話題を振った。

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