DIABOLOS~哀婉の詩~
愛するが故に・・・
しかし、再び彼女は目を醒ましてしまった。彼女にとって、こんな牢屋から出ることは、容易い事だったのだろう。両手両足の錠を引きちぎり、彼女がいた牢は、ものけの空になっていた。牢から出入り口に行くまでの経路の壁には、鮮血が飛び散っている。その側には、屍がごろごろと転がっている。兵士たちだ。使徒達はまだ深い眠りから目覚めない。やはり、僕が行くしかないだろう…いや僕が行くべきだ。彼女を救わなければならない。牢から脱獄した彼女は、この世に生きるものすべてを呪っているかのように、兵士を、民を惨殺していった。もはや、幽閉しておく事が不可能と察した王はアンネの処刑を兵士達に命じた。僕は、王に黙って彼女を迎えることにした。
彼女は、町外れの岩場に姿を隠していた。そこは、子供の頃、彼女とよく遊んだ場所だった。かすかに残る彼女の記憶が、この場所に導いたのだろう。此処は生臭い血の臭いが漂っている。僕は生唾を飲んだ。今、自分の目の前に体中に赤々とした鮮血を纏った鬼の形相の彼女が立ちはだかっている。兵士から奪った剣を片手に、今にも襲いかかってきそうな勢いだ。すかさず、僕も剣を構えた。不意に彼女は飛びついてきた。僕は紙一重で、剣で防いで、彼女と鬩ぎ合う。
『アンネ!!』
僕は、彼女に語りかけたが、返答は返らず、彼女からは呻き声しか聞こえてこない。
『お願いだ・・・・目を醒ましてくれ!いつも笑顔でいた君に戻ってくれ!』
僕の声は彼女に届いてはいなかった。
覚悟していたのに・・・・僕は彼女を斬りつける事ができなかった。それに、覚醒のせいか、彼女の力は増していて防ぐことがやっとだった。
やがて、剣を弾かれ、僕は最期だと悟った。
彼女は、剣を振りかざして、最期の一撃を浴びせようとした。
その時、不意に彼女の動きが止まり、かすかな声が聞こえてきた。
『に・・・・げ・・・・・・・・て・・・・・』
『ア、アンネ?!』
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