DIABOLOS~哀婉の詩~
長兄の覚醒
そんなささやかな幸せでさえ砂のように崩れていった・・・
“ただ、今を精一杯、生きていこう。”そう言っていたシモンが亡くなった。覚醒と言うものに耐えることができなかったのだろう。我々を導いてくれるはずの覚醒が、我々に不幸をもたらした。シモンが亡くなった日を期に我々は、完全に人として扱われることがなくなった。それはシモンの異常なまでの最期にあるのだろう。
 
我々の長兄シモンに突然、異変が訪れる。異変に気づいた僕が、歩み寄ろうした瞬間、シモンが空を見上げたかと思うと、声にならない激しい叫び声をあげ、喘いでいる。顔をみると、顔中の毛細血管が腫れ上がり、それは蛇が蠢いているようにも見えた。口から垣間見る真白い歯は次第にするどく長くなり、まるで獅子の牙のように思えた。僕はシモンに起こる異変にあっけにとられ、ただ呆然と見つめていた。騒ぎに気づいた闇の住人達が駆けつけてきた。覚醒が起こるかもしれない。ただそれだけの事でやつらは現れたに違いない。そう思いながら彼らを一瞬見てすぐ視線を長兄に戻した。長兄の目に変化がみられた。あれは人の目とは明らかに異なっていた。まるで獅子の目のように、金色に輝く瞳は楕円形を描き、シモンの目をギラギラとさせていた。
『おぉ・・・これが覚醒なのか・・・・我々の研究の第一歩だ!』
仮面の者がつぶやく。
僕は研究など、どうでもよかった。優しかった、あのシモンが今は、鬼のような形相で宙を見つめて、叫んでいる。その現実を受け止めるのに必死になっていた。
そう思っていた次の瞬間、シモンの全身を真紅の炎が包んだ。
『シモーーーーン!!!』
僕は叫びながらシモンに歩み寄った。シモンの体内から吹き出る炎は止まる事を知らずその真紅を揺らしていた。周りは、シモンの異変に驚き、ざわめいていた。僕は叫ぶ事以外、なにもする事ができなかった。やがて、炎が鎮火する。シモンが佇んでいたそこには、黒い灰の山が残っているだけだった。それがシモンの最期である。
その日からである。人と交わることを避けられ、また我々からも人を避けるようになったのは。闇の住人や国王はシモンの覚醒失敗に対して絶望感を抱いていた。やはり、人をも超える存在を創ることなど、所詮、神を冒涜する行為だっただけなのか。そんな思いを抱いているのだろうと僕は思った。
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