恋桜
涙雨
突然降り出した雨に僕は足を止めた。街を行き交う人々は足早に通り過ぎ、ある人はあたかも僕が社会の邪魔者のように横目で見遣やっていた。

ここにいる自分がとてもちっぽけな者に思えて、空虚な世界に思えて、全てが嫌だった。ぽっかりと胸に空いた穴をどうにかして埋めたくて、僕は雨空を見上げた。


4年、以前の僕なら永く感じた月日を刹那いものにした出来事。

大学生だった僕は時間と暇を持て余しては、誰かを待つわけでもなく、ただ時間を潰すためだけにカフェに通っていた。

その日も行き慣れた「Rodan」で窓辺の席に座り一杯のココアカプチーノを注目した。何も変わらない日常に溶け込んでいた水曜日の夕方。週の真ん中ということもあり人は疲れた顔を隠そうともせず街に溢れ出していた。

「何を考えてらっしゃったんですか？」

店員の大嶋さんがココアカプチーノを運んで来た。

「未来の自分」

と僕は答えながらあと何年もしない内にこの人混みの一員になるのかとただ眺めていた。大嶋さんは僕が見てる方を見遣る

「あっ、雨ですね」

突然降り出した雨に人々は小走りで散らばり始めていた。
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表紙・目次

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