恋桜
「あの人、何をしてるんですかね」

大嶋さんが見つめる先に、雨の中、一人の女性が空を見上げ立っていた。


いつもの僕なら気にもとめないことだった。
しかし、その時は違った。一瞬だった。女性の頬を伝え落ちる輝く物が見えた…。


「大嶋さん、傘ない？」

「店の入口に忘れ物の傘がありますよ。急にどうしたんですか？」

大嶋さんの言葉を聞き流しながら、僕は入口に置いてあった数本の傘から一本手に取り駆け出していた。

僕自身こんな行動力があったなんて思いもしなかった。

外に出て女性に近づいて行く。

今にも壊れてしまいそうな君がいた。

僕は君が壊れてしまわないよう傘をそっとさした。


「だ、大丈夫ですか？」

「…」

次に言葉が出てこなかった…。

僕はもう一度勇気を振り出し

「このままじゃ風邪引いてしまいますよ。とりあえずそこにあるカフェに行きましょ」

と声をかけた。

君は何も言わず、僕が言うがままついてきた。
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表紙・目次

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