道摩の娘
「…でも、わからぬのです。どうすればいいか… それに、自分がなぜこれほど動揺しているのかも」

「りいさん」

 真鯉がまた、りいを呼んだ。

 今度は柔らかい、笑みさえ含んだような声音で。

「やはり…りいさんは真っ直ぐな方ですわ」

「え…?」

 真鯉はくすりと笑いをもらした。

「りいさんがいらしてくださって、よかった」

 混乱してぱちぱちと瞬きを繰り返すりいに、真鯉は粥を差し出した。

「さあ、冷めてしまう前に、お召し上がりください」


 りいは真鯉の思惑がわからず、おずおずと彼女を見た。

 真鯉はたおやかに微笑む。

「…召し上がりながら、聞いてくださいませ。…ちょっとした、昔話をいたしましょう」


 まだ何が何だかわからないりいをよそに、真鯉はゆっくりと話し始めた。

「今は昔のことでございます。

 京に、ある男子(おのこ)が住んでおりました。

 位はあまり高くありませんでしたが、穏やかで優しい方でした。

 ある日、彼が信太(しのだ)の方へ遠出したときのこと。

 山道に、美しい娘が倒れておりました。

 彼が駆け寄ると、傷だらけですが、まだ息はあるようでした。

 彼は必死に声をかけました。

 すると、娘は目を開けて、言いました。

『助けて…!追われているの!!』

 それきり、娘はまた気を失ってしまいました。

 彼は困りました。

 近くには民家はありません。

 ですが、娘は見るからに傷だらけで、早く手当てをしなくては命も危ないかもしれません。

 迷った末、彼は、馬を飛ばして、娘を連れて帰りました。

 傷の手当てをしてやり、娘を部屋に寝かせてやりました」


 りいは真鯉の意外に上手い語りに引き込まれて聞いていた。

 しかし、その続きは驚くべきものだった。
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