道摩の娘
「…で、何?いつまで頭抱えてるわけ」

 晴明がどこか面白がるように言う。

 松汰はといえば、藤影を抱きしめて部屋の隅で大人しくしている。

「あ、ああ…」

 りいはいまだ羞恥に頬を染めながらも切り出した。

「…この間のだな」

 聡い晴明はそれだけで察したらしい。

「あ、あの河原の人のこと?」

「そうだ。…あの人は私と同じ、道摩の者でな…」

 そう言いつつも、万尋のことを思い出しただけで指に力が入った。

「…、代替わりを口実に道満様を…っ」

「…いいよ、わかったから」

 指先が真っ白になるほどきつく握り締めた拳に、晴明がそっと手を添えた。

 不意に感じたぬくもりに、すっと力が抜けていく。

 りいは軽く息を整えてから続ける。

「あの人は、禁術に手を出した。禁術と言えど単純な…体内にあやかしを飼う術だ」

 そこまでは晴明もわかっていたようだ。特に驚いた様子もなく相槌をうつ。

「…あのあやかしは、あの人の手に負えるものではないと、一碧様…今日来た仲間だが…が言っていた」

「…たしかに、鬼になりかけてたよね」

「ああ。…それで、禁術だが…他人を贄にすることによって、高位のあやかしを手なずけ力を我が物にする、と…」

 晴明が微かに息を吸い込む音がした。

 りいが伏せていた顔を上げると、晴明は複雑な顔をしていた。

「…正直予想はついたけど。実行する人間がいるとはね…」

 小さなつぶやきがこぼれた。

 嫌悪とも哀れみともつかぬ表情で、晴明は首を振る。

「…あの人はまたあやかしに捧げる餌を探すだろう。私と戦ってあやかしの力を使ったから」

 また力の入りかけた指を、晴明が抑えた。

「晴明、なんとかしなくては、 このままではっ…」

「落ち着いて。りいのせいじゃないから」

 声を荒げるりいを制止して、晴明は言った。

「…考えたことがある」
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