道摩の娘

 りいはしばし迷うが、やがて詮子の前に腰を下ろした。

「失礼いたします」

 と、声をかけて、詮子のもみじのような手をとった。

 本来ならりいはこういったことは不得手なのだが、背に腹は替えられない。

 戸惑いの表情を浮かべる詮子をよそに、りいは目を閉じて精神を集中させた。

 指先に神経を集中させ、詮子の力を探っていき…りいは瞠目した。

(なんだ、これは…!?)

 りいが気配に疎いほうであるとか、そんな問題は関係なかった。

 見鬼の才程度の問題ではない。ただの人が持つ力にしては桁外れといえた。

 そこらの術師よりも…否、これを超える力を持つのは、りいの知る限りでは晴明と道満くらいしかいない。

 しかし、一番の問題はそこではない。

 詮子は、これほどの呪力を制御することもなく、無防備に垂れ流している状態だ。

(万尋様がこれを知ったら…確実に目をつける)

 そう、ただの子供の魂よりも絶対に、いい餌になる。

 りいの背に冷や汗が伝った。


「…驚いた?…こんな力を持ってるから、この子、狙われるんじゃないかって心配で」

 超子が声をかけてくるが、りいには返事をする余裕がない。


「…超子様、このこと、他には」

「いえ、たぶん…家族と、側仕えの女房以外は」

 ということは、警護する側に詮子の危険性が知られていないということだ。同時に、万尋が知っている可能性も低いが…

 必死に頭を回転させて、出した答えは、

「他言無用とお約束しましたが…晴明に相談すべきかと」

「ええ?嫌よ、なんであんな性悪にかわいい詮子を引き合わせなきゃいけないのよ」

 超子は咄嗟に不満の声をあげたが、りいの表情を見て押し黙った。

「私よりも晴明のほうが実力は上です。それに…詮子様の力は、超子様が思っていらっしゃるより危険なのです。特に、今は」

「…まあ、あなたがそこまで言うのなら…」

 りいの切実な訴えに、超子も不承不承ではあるが、頷いた。

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