秘密
◇◇◇


「奏、どこ行ってたんだ?」

佑樹が私の靴箱の前で腕組みをして立っていた。

待たされるのが嫌いな佑樹。

「ちょっと、先生に呼ばれちゃって…ゴメンね」

私は佑樹に近付き胸に手を当て、佑樹の肩におでこをコツンと当てる。

これをやると佑樹は機嫌を直す。

わかってやってる私はもう慣れたもの。


「…じゃ、帰るか」


佑樹が私の頭を軽く叩く。
これもいつもやってる事。


「うん」


靴を履き替え二人並んで校舎を出る。

佑樹は一人で何やら話しているけど、私は上の空で、さっきの事ばかりが頭の中を埋め尽くしていた。

ねぇ?佑樹?
私、浮気したよ?
佑樹はどんな気持ちで浮気するの?

緊張と罪悪感と少しの優越感。

これが私の感想。

佐野君はちょっと、いや、かなり強引な感じだけど。

嫌じゃなかった。

でも、びっくりしたのは事実。

あそこまでやられるとは思ってなかった。

思い出すと顔が熱くなる。

私は佑樹しか知らないけど、彼は沢山知ってそう。

そんな事を考えていると、佑樹が私の肩に手を回し、耳元で呟いた。


「…今日、うち来る?」


じゃなくて、来い。でしょ?

いつもいきなり。
でも仕方ない。
私は断る事が出来ないし、佑樹の言いなり。

でも、私だって人形じゃない、色々な感情だってある。

だから、浮気したよ。
秘密だけどね。

私の精一杯の反抗。

でも私は佑樹とは違う、絶対にバレたりしちゃいけない。


私は振り返り、校舎の三階の理科室を見上げた。

佐野君。
まだそこに居たの?


「な?奏。いいだろ?」


返事をしないでよそ見している私に、また佑樹が聞いてきた。


「…うん。いいよ」


佐野君が私にヒラヒラと手を振った。



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