秘密
「そう、真っ直ぐリング見て、片手は添えるだけ、投げるんじゃなくて、反対の手首を使って、片手でリングに向かって、軽くジャンプしながら上に押し上げる……おおっ。ナイシュ!」
私の後ろにに立つ佐野君の言う通りにボールを上げると、ボールは綺麗な曲線を描いてリングに吸い込まれた。
「上手いじゃん奏、今ので3点入った」
リングから落ちて跳ねるボールを佐野君は拾い上げ、両手で頭の上からシュッと上げると、ボールはネットも揺らさずリングを通り抜けた。
やっぱり佐野君はスゴい。
「今のが必殺茜スペシャルなんとかシュート?」
「超必殺茜スペシャルウルトラシュート」
笑うと佐野君は再びボールを拾うと、ドリブルしながら私に近付いてきて、
「今度は俺からボール取ってみて?」
佐野君は足を開き、腰を落とした。
「え〜?無理だよ、取れないよ」
「大丈夫。ここから動かないから」
…動かないなら私にも取れるかも?
………なんて甘い考えで…
ドリブルでボールを右、左、足の間をすり抜けたり、ボールは佐野君の周りをクルクルと回る、まるで生き物みたいで、とてもそれを取るのは無理だった。
「あはは。奏、俺まだ一歩も動いてないぞ?」
「う〜…無理だよ、取れないよ」
あちこち手を伸ばすけど、ボールはその間をすり抜けていくばかり。
私は次第にムキになってきてしまって、どうしてもボールを佐野君から奪い取りたくなってしまった。
そうだ。
佐野君の動きを止めればボールも止まる。
私は思いきり佐野君の両腕を、佐野君の身体ごと力一杯抱き締めて、佐野君の動きを封じる事に成功した。
やった。これでボール取れる。
「……奏…ファールだ…」
「…え?…あっ!」
…私ったら…これはバスケなのに、思いっきり旨趣変わってる…
「…ぷっ、くっ…あはははは…」
佐野君は思いきり笑いだしてしまい、私もつられて、
「…あはははは」
私は佐野君に抱きついたまま、込み上げてくる笑いを抑える事が出来ずに、声をあげて笑った。
「…奏っ!」
急に私を呼ぶ大きな声がして、一瞬で笑いが凍りついた。
「……佑樹」
体育館の入口に佑樹が立っていた。