秘密
…痛い…痛い…痛い…
痛いよ……
捻った手首も…
……身体も…心も…
「…奏…奏っ…」
佑樹は私の名前を呼びながら、狂ったように私の身体をかき回す。
私は傷み以外の感覚しかなく、心は張り裂けそうで、涙が溢れて止まらなかった。
佑樹が動くたびに背中にあたる床の固さと佑樹の重みで、息が苦しくなる。
さっきまで佐野君と笑ってたのが嘘みたいに、天国から地獄に落ちたみたい…
……佐野君…佐野君っ…
私の名前を呼ぶ声。
大きな手のひら。
広い背中。
優しい笑顔。
いつの間にか私の中で、佐野君が溢れてしまっていた。
…お願い…お願い…早く終わって!
苦痛以外の何物でもないこの行為が終わるのを、佐野君の事を思い浮かべ、必死に耐えた。
やがて佑樹は果てると、ぐったりとその身体を、私の身体に預け、荒くなった呼吸で私の耳元に呟いた。
「…お前は…俺の…モノだ…誰にも…渡さない…奏…お前が…いちばん…好きだよ…」
そう言って、涙で濡れた私の瞼にキスを落とす。
……佑樹…
…私がいちばん好きなのは、佐野君…
佑樹の事は、はじめから好きなんかじゃ…ないんだよ…
佑樹だってそうでしょ?
だから浮気するんでしょ?
もう私の事…解放して…
……それが言えたら、どんなにいいだろう…
でも、佑樹に逆らったりしたら、うちは…お父さんは…
いくら考えても、行き着くところはいつもそこで、結局私はどうする事も出来ずに、立ち止まってしまう。
佑樹は制服を整え、私を一人置いて、生徒会室から出ていく。
私は暫く痛む心と身体のまま、放心したように、天井を見つめた。
廊下から足音や話し声が聞こえてきて、ゆっくりと身体を起こすと、手首に激痛が走り、見ると倍近く膨れ上がっていた。
痛いはずだ…こんなに腫れてるんだもん…
腫れを自覚すると、ズキンズキンとさらに痛みが酷くなっていく。
痛む手首に顔を歪めながら、下着を履き、制服を整えて、生徒会室を出ると、もう随分と生徒達が登校していて、涙で濡れた顔をなるべく見られないようにうつ向き、私はふらつきながら保健室へと向かった。