秘密
「きゃあぁ〜♪いらっしゃい♪奏ちゃん、待ってたわよ♪さ、上がって?」
いつもより、1オクターブ位高い声で、年甲斐もなく、はしゃいだような声で奏を迎える母。
「お久しぶりです、お母さん、今日はお世話になります」
「お世話したくてたまらなかったわ♪お腹空いたでしょ?早速ご飯にしよう♪ほらあんたたち、早く上がんなさいよ。デカいのが二人も立ってたら邪魔でしょ?」
台詞の後半、いきなり低音になった声に、多少引きつりつつ、靴を脱ぎ、一週間ぶりの我が家に上がる。
やっと家にたどり着いたのが、20時過ぎ、もう腹ペコ…
昼飯は控え目だったから、俺の腹の虫は限界を越えていて鳴りもしない。
兄貴が奏をあちこち連れ回し、初孫を喜ぶジィさんみたいに、あれ買ってやる、これ買ってやるって。
…さすがに下着買ってやるって言った時には俺も本気でキレた。
結局水着だけ2着購入。
勿論試着無しで(怪我もあるしな)
Tバックと紐はその場で店員に突き返し、兄貴に拳をお見舞してやった。
どんな水着買ったかって?
それは秘密だ、ははは。
そんな訳で、帰宅するのが遅くなってしまった。
「母さん、晩飯何?腹減って死にそう…」
リビングに入りながら聞くと、
「ハンバーグとカルボナーラとグラタンとおでん♪」
…は?何その組合せ…
しかも全部俺の好物ばかり…
俺がきょとんとしていると母さんが、
「…やっぱり忘れてるわね?今日はあんたの誕生日でしょ?」
…………あ。
「え?佐野君。今日誕生日なの?」
「……うん。そうみたい」
「そうみたいって…私何も用意してない、ごめんなさい…」
「あはは。いいって奏ちゃん、茜、毎年忘れてんな、お前」
「……うん」
「もう一回買い物に連れてって下さい。しず…お兄ちゃんお願い」
「うん♪いいよ♪行こうか?」
「…は?ちょっと、奏っ」
兄貴を引っ張り、玄関へと戻る奏。
それを追いかけ引き止める。
「…いいから、行かなくて」
「でも、佐野君の誕生日…私知らなくて…」
「俺も忘れてたんだから、知らなくて当たり前だろ?あ。今日奏がうちに来てくれたのが嬉しいプレゼントだよ」
そう言って奏に笑って見せた。