秘密
私の中で膨らんでいた勇気の固まりが、音を経てて萎んでいく。
……お父さん。
昇進するんだ…それって凄い。
休日出勤当たり前で、残業ばかりして、拾ってくれた会社に少しでも貢献しようと毎日頑張ってた…
お父さんが夜遅くまで、持ち込みの仕事こなしてたの知ってる。
その結果認められての昇進…
嬉しくない筈はない…
私も嬉しい……けど…
「……社長…夫人って?…」
「奏は俺の婚約者としてパーティーに出席するんだ」
床が崩れ落ちたみたいに足元がガクンとなり、佑樹に支えられた。
「奏、どうした?気分でも悪いか?」
佑樹の腕に支えられながら、
「……婚約者…って…私達、まだ高校生…だよ?…」
「そんな事は関係ない、奏は俺と結婚して、おじさんも一緒にもっと会社を大きく、海外のリゾートホテルやテーマパーク、将来はそうやって事業拡大させるんだ、前に奏の家に行った時、おじさんにその話したら、一緒に頑張ろうなって言ってたよ」
目の前が真っ暗になった。
……佐野君…
…佐野君っ。
やっぱり言えない…
佑樹と別れる事なんて……
…出来ないんだ…
こんなにも…大好きなのに…
……ごめんなさい…佐野君…
佐野君の気持ちに応えられない…
でも。
好きなの。
大好きなの!佐野君!
「奏は?話があるんだろ?」
……私の話?
…あなたと別れたいの。
「…うん。私、アルバイトしようと思って…」
「バイト?する必要無いだろ?」
シロにご飯食べさせなきゃ…
「…夏休みに、美樹ちゃんと旅行しようねって…約束したの…だから」
「美樹ちゃんと旅行?」
佐野君とリョータ君達の全国大会の応援に行くの…
「…うん」
「…仕方ないな、まあ俺もこれから、夏休みも生徒会が忙しいしな…夏期講習もあるし、やってもいいよ」
夏休みは佐野君が選んでくれた水着で海水浴に行くんだよ…
「…うん。ありがとう、佑樹」
…ずっと…佐野君と一緒に居られると…思ってたのに…
やっぱり…無理だったんだ…