秘密
「ああっ!今頃棒が来やがった、くそっ、あっ、そこじゃねぇ!うをっ?…手がつるっ…あぁぁ…自滅」
もうかれこれ30回は佐野君と対戦したんだけど…
佐野君は一度も勝ってくれない。
手抜きしてあげてるのに…
なんて、言えない…
静さんが部屋を出ていってから、私と佐野君はテレビの前に座り込み、ずっとテトリスをやっていた。
佐野君はだんだんムキになってしまって、勝つまで止めないとか言うし…
「だあぁぁっ!…やっぱ神には勝てねぇ!」
そう言うと佐野君は後ろに倒れ込み、コントローラーを投げてしまった。
勝ちが過ぎたかな?
佐野君…怒ってる?
「そんな事ないよ、佐野君上手だよ?」
佐野君はゴロリと体を反転させて肘をつき、横向きに頭を支えた。
「奏には敵わないや…はは」
「まだやる?」
「いや、もう止める、目がチカチカする…」
「テトリスは目が疲れるね」
「今日はもう寝ようか?明日も朝から出掛けるし」
「うん」
佐野君は身体を起こすとゲームを片付けはじめて、私もそれをお手伝い。
片付け終わり佐野君は部屋から出ようとドアノブを掴むと、何かを思い出したように私に向き直った。
「あ、カケルさんからメール来てたんだ、奏にカケルさんの番号とアド教えとけって」
「カケルさんが?」
「来週からバイト来てもらつもりだから、詳しい事また連絡するって」
私…あの場から走って居なくなったから、そんな話出来なかったな…
カケルさんにもアスカさんにも心配かけちゃった…
「ちょっと待ってて…」
リュックから携帯を出して見ると、メール受信のランプが点滅していて、開いてみるとお父さんからのメール。
夕方頃に今日は美樹ちゃんの所に泊まるからとメールして、その返信だった。
『わかりました。美樹ちゃんのご両親に宜しく。
それと、昨日はいきなりの事で驚かせてしまってすまなかった。
奏の事も考えずに軽率だったと思う。お父さんが悪かった。
奏さえよければ、今度成美さんも一緒に食事にでも行こうかと思ってる。
無理にとは言わない。
お父さんは奏の事を一番に考えている。
それだけは覚えておいてくれ。
じゃあ、夜遊びなんかするなよ?
楽しんで来なさい』