秘密
「カケルさんからだ…」
思わず呟くと。
「何?ちょっと貸して」
佐野君は私から携帯を奪うと通話ボタンを押して電話に出てしまった。
「……はい…俺…茜。何ソッコー電話してんの?仕事中だろ?……奏?……居るけど…で?用件は?……は?代われ?…俺じゃダメな訳?……ちっ……わかったよ、奏に変な事言うなよ?…はい。奏」
佐野君が私に携帯を返してくれて。
耳にあてると微かに音楽とざわめきが聞こえてて、カケルさんが今仕事中なんだと伺える。
「…今晩は、奏です」
『奏ちゃん?男が出たから焦ったよ、あはは』
「すみません…あの、昨日は…」
『昨日の事は気にしてないよ、今日は茜と一緒なんだ?』
「はい、佐野君の実家にお世話になりに来てるんです」
『…そっか…あ。バイトの事、ありがとね?嬉しいよ二人がうちに来てくれるなんて』
「私もありがとうございます。美樹ちゃんとアルバイト出来るなんて、考えただけでも楽しそうで」
『うん。スタッフもみんないい人達ばかりだから、早速なんだけど、来週の水曜から出てきてもらえる?』
「はい、わかりました。あの何階の何て言うお店ですか?」
『飲食店は最上階に集中してるから15階。エレベーター降りて直ぐの右側にあるよ、店の名前は【honeyfactory】』
「【honeyfactory】…ふふふ。可愛い名前ですね」
『そのまんまだけどね?まあ、気に入ってる、じゃ、学校終わったら美樹ちゃんと来てくれる?』
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
『こちらこそ、水曜日、待ってるから』
電話を切ると佐野君が、
「バイト、水曜からだって?」
「うん。楽しみ、他のスタッフさん達もいい人達ばかりだって」
「…男のスタッフ?」
「それは聞かなかったけど、パティシエって男の人が多いよね?」
「………男か…」
何やら考え込んでいる様子。
「…美樹ちゃんも一緒だから大丈夫か…」
と呟く佐野君。
「?…何が大丈夫なの?」
「いや、何でも…バイト、頑張れよ?」
そう言って私の頭を撫でてくれる。
今はこの手だけが私の唯一の安らぎ。
…ずっとこうして居てほしい。