秘密





波打ち際に向かって勢いよく駆けていく。


そのままバシャバシャと水しぶきを上げながら、波に逆らって前に進むと、一際大きな波が打ち寄せてきて、足元をすくわれてしまった俺はバランスを崩し。


「おわっ!」


尻餅をついてしまった。


「……ははは。転んだ」

「ぷ…っ、あははっ、大丈夫?佐野君」


後ろから奏が笑いながら俺に手を差し出して、その手を取ろうと後ろを見上げると、入道雲の隙間から覗く太陽の陽射しの眩しさに目を細める。


再び大きな波が押し寄せてきて。


「ひゃあっ!」


奏も同じようにバランスを崩してしまって、俺の胸に飛び込んできた。


ナイスだ高波。


「ごっ、ごめんなさい」


慌てて立ち上がろうとする奏の背中に手を回し、腕の中に閉じ込めた。


「……あの、佐野君?」

「んー?」

「…離して?」

「断る」

「…は…恥ずかしいんだけど…」


事故とは言え、奏の方から飛び込んで来たんだ、水着な奏を思いきり堪能してやる。


奏の腰に腕を回しさらにグッと引き寄せる。


するとまた再び大きな波が押し寄せてきて、俺達は頭からザブンとその渦の中へと飲まれてしまって。


「ケホッ、鼻に…ケホッ、水…っ、入った…」

「…俺も、ゴホッ…」


頭からずぶ濡れになってしまって、むせ反りながらお互い顔を見合わせて。


「ケホッ、あははは」

「ははは、ゴホッ」


笑い出してしまった。


キラキラと、陽射しを浴びて輝く海面よりも、笑う奏の笑顔が眩しくて、俺は暫しそれに見とれてしまう程。


俺の欲目かも知れないけど、日を追うごとに益々綺麗になっていく奏。


それに置いていかれないように、俺ももっと人として成長しなければと、改めて自分に言い聞かせた。


俺は立ち上がり奏の手を取り。


「もう少し沖に行こうか?ここじゃ波が高くて泳げない」

「うん」


奏と手を繋いで沖に向かって歩き出す。


眩しい太陽の陽射しに反射して輝く水平線。


隣には奏。


奏と過ごす初めての夏は、まだ始まったばかり。



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