秘密



「佐野君……」



いつの間にか美樹が俺の横に立っていて。



心配気に俺を見上げていた。



「……かなちゃん、無事でよかったね…」


「うん……」


「あ。拓也に連絡しないと、あたし一旦外に出るね?佐野君はここで待ってて?」


「いや、俺も外に出る……」



奏を見守っていたいけど、そうする事も出来そうになくて、佑樹に対してどんどん卑屈な気分になってしまう自分が情けなくて嫌気がさす。



「でも…、その格好じゃ…他の人が……、驚くよ?」


「あ……」



そうだった。
こんな血まみれの格好……



「ちょっと…、君」



不意に声をかけられて、その声の方に視線を向けると、先ほどの若い医師がそこに居て。



「……俺?ですか?」


「うん。君。さっきは叩いたりして、悪かったね」


「いえ、俺の方こそ、取り乱したりして、すみませんでした」


「僕は研修医の岡崎って言います。よかったら、ちょっと付いてきて?」


「は?……何ですか?」


「いいから、こっち」



岡崎と名乗った男は俺に背を向けてスタスタと歩き出す。



俺と美樹はお互いの顔を見合わせ、取り合えずその若い研修医の後を付いていく事に。



広い総合病院の通路を4〜5分程歩いて、連れて来られたのは更衣室とプレートが付いたドアの前で。



「どうぞ?」



岡崎はドアを開けると中に入るよう促す。





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