秘密



佐野君が好き。


佐野君が好き…


心の中で何度も繰り返す。


……私。

佐野君が好きなんだ。


…どうしよ。

心臓が痛い……


…ダメなのに。

佐野君には彼女が居るのに。

私には佑樹が…


この気持ちを佐野君が知ってしまったら。

佑樹に知られてしまったら…


佐野君は私から離れて行ってしまうかも。

所詮浮気相手だし……


………佑樹は?

怒るかな?

私から離れてくれるかな?

そしたらお父さんは?



ダメだ…

こんな気持ちはダメなんだ。


絶対に隠し通さないと。


…佐野君にも秘密にしないと。


佐野君の側に居られなくなる。

浮気でもいい。

佐野君の側に居たいよ…


初めて佐野君を見たのは体育館でのダンクシュートだったって今日知った。


また次に出掛けるって言ってくれた。


佐野君の過去を知った。


跳ぶ力をなくした事。


自分から話してくれた。


嬉しかった。


気持ちが溢れてくる。

これが人を好きになるって事?

こんなも胸が苦しくなるの?


……佐野君…



「奏ちゃん?」

「えっ?あっ、はい?」

しまった。
ぼんやりしてしまっていた。

「紅茶、おかわりは?」

私は空のティーカップを持ったままだった。

「あ。はい、頂きます…」

お母さんはカップをさげてキッチンへと向かう。

外からバイクのエンジン音が聞こえてくる。

「あ、帰ってきたみたいね?」

お母さんがキッチンのカウンター越しに私に言ってきた。

「奏ちゃん、今日は夕飯食べてってね」

ニコッと笑うお母さん。

「え?…でも…」

「遠慮しないの!どうせ茜も食べて帰るんだから」

「…はい、ありがとうございます」


佐野君とお兄さんの静さんがリビングに入ってきた。

「あ、お帰りなさい…」

私は佐野君の顔がまともに見れなかった。

「ただいま」

言うと佐野君は私の頭を軽く叩いた。


たったそれだけの事に胸が苦しくなった。


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