秘密






ヨースケに連れてこられたコートを後にして、俺達は帰る事に。


帰りは来た時とは違う道をヨースケは走っていて、見慣れた景色が窓の外を流れた。


……ホントに学校の近くだったんだ。


学校の前を通り過ぎて、暫く走ると区立体育館が見えてきた。


嫌でも事故の事を思い出してしまう。


「佐野、まだ時間大丈夫か?」

「え?」

「帰ったら、車椅子バスケ全日本の試合のDVD一緒に見ようぜ」


全日本の試合?
それは見てみたいけど。


「ごめん洋ちゃん、俺、今日は実家に帰らないといけないんだ」

「あー、そっか。じゃまた今度な」

「ごめん。でも試合は見たいから、そのDVD貸してくんない?」

「ああ。いいよ」


家に着くとばあちゃんは庭の手入れをしていて、俺達が帰ってくると作業をやめて麦茶を入れてくれた。


「わっ!二人とも汗くさいっ!シャワー浴びなさい!茜ちゃんも!」


うちの母さんみたいな事を言って顔をしかめるばあちゃん。


「直ぐに浴びるよ。佐野。ちょっと待ってろ」


ヨースケは部屋にDVDを取りに行ったのか、俺はばあちゃんと二人リビングに。


そんなにクサイか?


Tシャツの襟首を掴んで匂いを嗅いでみる。


……うーん。
確かに酸っぱいな……


「ばあちゃん俺はいいよ、直ぐ帰るから」

「え?帰るの茜ちゃん、晩御飯も食べていって?」

「ありがと、ばあちゃん。でも今日は実家に帰るんだ」

「そう、残念だわ…、お野菜も沢山採ったのに。でも仕方ないわね?茜ちゃんのお母さんだって、きっと晩御飯沢山作って待ってるだろうし、また今度ね」

「ごめん、ばあちゃん」

「いいのよ、お野菜はお漬物にも出来るから、今日はお母さんに甘えて来なさいね?」


ばあちゃん。
この歳で母親に甘えてたらキモいぞ。


「佐野。コレ」

「ありがと、洋ちゃん」


ヨースケからDVDを受け取ると、俺はソファーから立ち上がり。


「じゃあね。ばあちゃん、今日はありがと、それとシロの事、よろしくお願いします」

「わかりました。心配しないで。安心してね?シロちゃんは責任もってお預かりします」

「うん。洋ちゃん、またね。昼間は練習いつでも付き合うから」

「おう。サンキューな、またメールするから」

「うん。じゃ、お邪魔しました」


最後にソファーに寝そべるシロの頭を撫でて、ばあちゃんの家を出た。


携帯で時間を確認するともう午後5時になろうとしていた。


何時もなら奏の病院に行ってる時間だ。


今日は実家にも帰んなきゃだし…
……行けないかな…


奏に聞きたいことがあるんだけど、記憶を無くしている奏にそれを聞くことは無理な話だ……


奏は俺がアメリカに行ってもいいって、本気で思ってたのか?


もしそれが本当なら……


記憶なんて戻んなくてもいいから。


いや。


むしろそのまま思い出さないでいてくれ…



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