秘密
俺が二階から階段を降りて来ると、玄関の下で奏が両親と兄貴に深々と頭を下げていた。
「今日はホントにお世話になりました、凄く楽しかったです」
「…泊まって行きなよ?奏ちゃん」
兄貴は名残惜しそうな顔をして奏の頭を撫でている。
…全く、油断も隙もない。
「静ったら、二人とも明日は学校でしょ?奏ちゃん?今度来る時は泊まってってね?」
「……はは」
奏は困ったような顔をして笑った。
「奏これ」
俺は兄貴の手を奏の頭から払い退け、二階から持ってきたスタジャンを奏に渡す。
「夜は寒いから、着てて」
「…あ…ありがとう」
奏はスタジャンに袖を通す。
はは。ブカブカ。
「…やっぱり俺が車で送る」
兄貴が靴を履きだした。
「あのっ、大丈夫ですから、佐野君と帰ります」
「えぇ〜?バイクは夜は危ないよ?寒いよ?」
「大丈夫です。バイク…好きですから…」
「じゃあ、俺がバイクで…」
「…兄貴しつこいぞ?奏、行こ」
奏を促し玄関を開ける。
「ははは。静諦めろ、奏さん、今度来る時はゆっくりしておいで。勿論泊まりでも構わないよ?家に女の子が居るのはいいもんだな?な?母さん?」
「ホントに、静じゃないけど、帰したくない位だわ」
「……ありがとう…ございます…」
「あれ?奏ちゃん?泣いてる?」
…は?泣いてる?
「…奏?」
かがんで覗き込んだらホントに奏は泣いていた。
「…あ、はは。何でも…ないよ?ごめん…」
「…兄貴がしつこいから奏が泣いた」
兄貴は狼狽え、
「…えぇっ?俺のせい?」
「…違うん…です、嬉しくて…皆さん、優しくて…あはは。変ですよね?」
奏は泣き笑い、俺は奏の頭をポンポンと軽く叩く。
…嘘ついてるのが辛いんだな…
こんなに歓迎されて、ホントの彼女でもないのに…
俺も浮かれてた。
ごめんな、奏…
「帰ろうか?」
「…うん」
俺は振り向き、
「じゃ、また来る」
「来る前は連絡しなさいよね?」
「気を付けて帰れよ?」
「…奏ちゃ〜ん…」
「お邪魔しました、さよなら」
また来るとは言わないで、奏は笑顔でそう言った。