きみの声がきこえない

男はポケットに手を入れて、

背が高いからちょっと腰をかがめてあたしの顔を横から覗いて、

懐っこくあたしに話しかけた。


「ねね、何してたの?」

「別に何も?」

「何か物思いにふけりにきたの?」

「違います」


何だこいつ、ちゃらいな。

あたしがスタスタ足を速めると、奴は止まって、あたしの背中に言ったのだ。



「“あたしは恵まれてる。なのにモヤモヤする。

何で寂しいのか分かんない。自分が一番分かんない”」



あたしは思わず振り返った。

何で、あたしがさっき思ってたこと?



「何あんた」

「うそ、当たり?」


得意気に男はにいっと笑った。
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