貴方の恋人になりたいです
稽古も終わり日も暮れ、自分の部屋の縁側でボーッと空を見上げていた。
今夜は満月だ。
満月の夜はよくないことが起こると、昔から言い伝えられている。
なんとなく、心がざわつくのはどうしてだろう……。
「立派な月やなぁ」
ふと頭上から声が聞こえた。
声の主は、そう……
彼だ。
「勝手に入ってこないで」
振り向きざまに、ムッとした声で彼に抗議すると、案の定彼はあの張りつけた、仮面のような笑みを浮かべて言った。
「声、かけたで」
「うそ!?」
「ほんま。気づかんと、ボーッとしてたんはそっちやろが。なんでボクが悪いみたいに言われなあかんねん」
つらつらとごもっともだけど腹の立つ言葉を並べる彼に苛々した。
だからなのかな。思ってもない、可愛くない言葉が出たのは……
「なんのようよ。さっさと帰って」
「なんのようって…忘れたとは言わせへんで。こないだの賭けの話」
「賭けって………」
すっかり忘れてた………
「忘れてたって顔やな」
彼の唇が先程よりもニンマリと弧を描く。