【B】君の魔法




武流さんの口が、
声がないままに……
私の名前を紡いだ。






「失礼致します。
 
 本日、会長の
 お供をさせて頂きます」



会長専用の手帳を
ゆっくりと開くと
今日のスケジュールを
順に読み上げて伝えていく。 



それと同時に、
その場所で必要な
書類などの確認も踏まえて。



読み上げながら
感じるのは……
これだけの仕事を
毎日こなしている
彼が……体を壊していないか
……どうか……。




「あぁ。
 わかった」

「それでは、
 9時半に、下に
 車を手配して置きます」




これはビジネス。


今の私は……
会長の秘書としての役割を
こなすだけ。






心を押し殺しながら……
ビジネスだと
割り切りながらも
久々に過ごす
会長と二人だけの時間は
優しい。





あんな別れ方をした今でも……
もうすぐ柳さんとの
挙式を控えているはずなのに
彼がエスコートするその様は……
あの時間を錯覚させるのに
時間はかからなかった。





夢のような時間が
流れていく。



< 227 / 339 >

この作品をシェア

pagetop