ズルイヒト
サイカイ
 イルミネーションツリーが夜の街を幻想的にさせる光景、最近見慣れたはずが、今日はいつも以上に人が賑わっていた。


 腕を組みながら、レストランへ入る男女、イルミネーションを楽しく見ている男女、ケーキ屋に並んでいる男女。


 向かいからおしゃべりしながら歩いてくる一組の男女。独りで街を歩く私を「あなたは負け組」なんて見下した目で女は見た。


 なんたって今日はカップル、子供達、恋人がいない寂しさからと友人、仲間で楽しむクリスマスイブ。いつの時代からイブを独りで過ごすのが、可哀想などとレッテルがついたのか、周りがどうあれ、恋愛感情なんて昔に捨てた私にとって、イブもバレンタインも――色恋に関わるイベントなんてものは無縁。


 同僚に独り身達の集まるクリスマスパーティーに誘われたが気が乗らず断って、周りに目も暮れず今にいたる。


 今日みたいに楽しい日、独りでいることで、壊してしまった罪、その罰までも耐えられず逃げた私の出来る償い。


 あれから10年も続けた。あと4年、当時の歳と同じ年が経過したらあのときのことを『絶対、許さない』と言った貴方に許されると勝手に思いながら――


 周囲に無関心を貫く私の目は、ふと前方に複数人映る中の歩きもせずただ道の真ん中に立っている灰色のコートに身を包む男を捉えた。


 不思議だなと思うだけで、すぐに興味を失う。それすら思わず何事も無かったはず、私の映した人物が、乾 久央(イヌイ クオウ)でなければ。
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