ズルイヒト
ミエナイクサリ
 ワゴン車に乗せられ、連れられて来た高層マンションの一室は、久央が住んでいるのかと疑うほどモノも生活感もない。


「なかなか広くて景色もいいだろ」


 周りよりも高い、高層マンションの上層部分にある部屋は、遠くの建物から発する明かりが、今日も見たイルミネーションのようで、夢心地な気分になるが、目を下に降ろせば世間から置いていかれた気分なる。


「必要な物は明日デパートにでも行って揃える。欲しいもの考えとけ」

「欲しいもの?」


 夜景から部屋にいる久央に目線を戻しながら訊ねたら、先ほどナイフで脅した人には見えない。


 他人を常に警戒心を持っていたけど、心を許した人には甘ったれな部分が見せ、本気で言えば言うことを聞いてくれる。争いごとが好まず温厚な彼が本来の性格。


 そんな優しい彼が攻撃的な部分を作ってしまった原因は、私。だから、怖いと思うのは一番駄目なのに、あの時の私も今の私も久央に包む異常な雰囲気に怯えた。


「洗濯とか冷蔵庫とか最低限のもんはあるけど、食器とかなんもないから、一緒に選ぼうな」


 薄々思っていたけど、確信がついた。罰を与えるため、今度こそ逃がさないようにと、久央は私をここに住まわせるつもりだ。


 久央に対して反論や否定を言葉にする権利はない。けど、使っていない食器とかあるから有効活用しようと提案した。
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