forget-me-not
ハラリ、風が悪戯に私の長い黒髪を弄ぶ。
それに合わせるように手に持った詩集のページを捲った。
秋の鬱蒼とした空に太陽は隠れて、心地よい静けさと湖面が小波をたてる微かな音。
チリン
鈴音にピクリ、反応して顔をあげればベンチの手前、湖の岸の低木の下からは
1匹の黒猫。
「あ…」
思わず漏れた声。
灰汁の強い、深くて濃いブルーの瞳に驚いたから。
でもその瞬間に些か強い秋風が吹いて、その声は風音に掻き消される。
「あ…」
もう一度漏れた声。
被っていたツバの広い帽子が風に浚われてヒュルリ、斜め後ろに飛ばされたから。
前に出しかけた一歩をそのままに、前足を停止させて数秒の間私と目を合わせていた黒猫は帽子を追うようにそちらに向かう。