forget-me-not
「こんにちは、」
社交辞令めいた口調で淡々と、こちらを向いたその人は口角をあげる。
{恐いものなんて、何もない}
この人が醸し出すそんな堂々として自信に溢れたオーラに少し戸惑いを見せた私は、キモチ、目線下で会釈を返す。
「先輩、ごめんこの人…」
「教授のアシスタントで来てる、星 泉月(ほし いつき)です。よろしく」
(…へ?)
握手?
私の目の前に差し出された長い腕。それは明らかに何かを待っている。
初対面で握手を求める人なんて本当に居たんだ、外国人じゃあるまいし。
そんな事を頭の片隅で考えて、渋々その手に触れた。
『雨嶺 風、です』
「で、?葉のこと、好きなの?」
笑顔を貼り付けたまま、会話の流れのままの軽いテンポで促される。
(…名前訊いといて、ム、シ?)