【短編集】闇に潜む影
「ねぇ」
フェンスの内側に戻った私は、私の背後にいる彼に声をかける。
「何?」
きっと私の目は赤く腫れて、細くなってしまって、鼻の先は赤くて、
・・・とにかくぐしゃぐしゃな状態だろう。
他人に見せられるような顔じゃない事は確かだ。
だけど、そんなことはどうでも良かった。
「名前、教えてよ」
「いいよ」
彼は微笑むと、一歩前に出た。
「僕は古田耕一」
「私は、「知ってるよ」
「へ?」
素っ頓狂な私の声に、彼が満面の笑みを浮かべる。
「同じ高校なんだから、知っていてもおかしくはないでしょう?」
彼は私の制服のスカーフに付いた校章を指差した。
「一方的に?」
「そういうことも、あることはあるでしょ?」
確かに、それはそうだ。
だけど、何故私のような目立たない人間の名前を彼は知っているのだろう。
「不思議そうな顔をしているね」
彼はくすくす笑うと、そっと私の右手を両手でつかんだ。
既に右手は温かかったけど、また新しく温かさが注がれているような感覚だった。
できるのであれば、
この温もりがずっとこの右手に残ると良いと、心からそう願った。
「あのさ、・・・約束して欲しいんだけど」
突然、彼の表情が真剣なそれに変わった。