君が笑える明日
いちごに視線を向けると、いちごは背伸びをして部屋の窓を空け、じっと外を見つめていた。

どうやら彼女は、窓からすぐ近くに見える大きな桜の木が気に入っているらしい。
とはいえ、今は葉が青々と生い茂っているだけだが。




「知ってるか。チビ。夏の桜の木には毛虫がいっぱいいるんだぞ」

太一が、あまりに残酷な一言をいちごにかけた。いちごは、ピクリと表情を強ばらせると、ピシャリと窓を閉めた。

「太一……大人げないことすんなよ」

「すぐに網戸を取り付けようね、いちご」

ヒロと三波が声をかけると、いちごはコクリと頷き、太一はククッと笑った。

太一なりの、いちごへの労いなのか。
八歳の少女と触れ合うことに関して、ヒロも太一も慣れていない。
しかし、この愛らしい少女の声を奪うほど辛い何かを彼女が経験してきたのだとすれば、自分たちが少しでも楽しみを与えてやれればとは思う。
そんな軽い同情のような気持ちが、ヒロの中にはあった。

「裕之くん、太一くん。たまにいちごに声をかけてあげてもらえるかい?人とコミュニケーションをとることは彼女にとって今とても必要なんだ」

ヒロも太一も互いに頷いて、もう夜も遅く、いちごが眠そうに目をこすったので、その日一同は解散となった。
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