君が笑える明日
失声症……。
少ない知識ながら、ヒロでも名を知るその病気。

「だからいちごが君たちと口をきかないのはわざとじゃないんだ」

「はい。わかりました」

「ありがとう。君たちは大学生?」

優しい微笑みを浮かべたまま三波はこちらに問うた。
やはり職業柄だろうか、三波と話すと落ち着く。安心した気分にさせられる。
しかしそれが、まるで中学生が優しく厳しい教師に諭されている時のような、なんとなく強制されているのが気に入らないような複雑な気持ちさえも感じさせるのは、自分が今正常だからなのか。
もしくはその優しさすら受け入れられないほどまだ自分は擦れているのだろうか。

「はい。近くの美大生です。このアパートは、一つの部屋をアトリエとして使っても良いことになってるんで、俺も太一もここに」

「へぇ。そうなの、知らなかったな」

「それにしても、医者が住むにはボロすぎません?」

いきなり不躾な質問をしたのは、ヒロではなく太一だった。
ヒロもそれは考えていたが、出会ってすぐにずけずけと聞くことの出来る太一の気安さが羨ましくもあり、ある意味恐ろしい。
一方三波はその質問に気分を害した様子もなく、ふふっと笑って答えた。

「確かにね。だけどいちごが、どうしてもここがいいと言うから。僕は家を空けることが多くなるだろうから、彼女の希望に合わせようと思ってね」
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