ラヴァーズ・インザ・ダストボックス
機上から見下ろすこの街は、ノスタルジックに彩られ、出口を失くした迷路の様だった。


もしかしたら僕は、十四歳の僕は、あの美しい世界にまだ居るのではないか? 

あの夜、僕はふたつに分離して、片方だけが取り残されたままなのではないか? 

約束を抱えたままの僕が出口を求め彷徨っている――僕の記憶をなぶり尽した魚たちが、悠々と海に戻って行く姿を見ながら、そう思った。




彼女と交わした小さな約束は、小さな棘へと変わって。


抜けることなく、


溶けることなく、


癒えることもなく、


この身体に今も刺さっている。








『タルコフスキーが棲む世界』

        終
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