この世界は残酷なほど美しい
「おい、流星。どこ行くんだよ?今から授業始まるぞ」
蓮が僕を見上げてこう言う。
音楽を聴いていても他人の声はちゃんと聞こえている。
「トイレ。さっきから行きたかったんだ。行くの忘れてた」
「気づくの遅いな。早く行って来いよ。」
蓮は笑いながらこう言って、立ち上がる花音に「バイバイ」と手を振っていた。
僕は足早にトイレに向かう。
膀胱が少し限界に近かった。
トイレは不気味なほど静かで、開いていた窓から真っ青な空が見えた。
まるで絵に描いたような澄んだ青色。
そういえば母さんが死んだ日もこんな空の色をしていた。
母さんが死んだのは僕が8歳になる頃だった。
僕を産んでから体が弱くなった母さんは入退院を繰り返していた。
病名は正直憶えていない。
憶えているのはあの薬臭い病院の匂いと、母さんの横顔、そしてもう一つ。
父さんに対する憎しみ。
もう過去のことだから忘れた方がいいのだと思う。
だけど忘れてしまったら母さんが可哀想だから。
僕は母さんを忘れたくない。