この世界は残酷なほど美しい


お兄さんは静かにこう言うと、灰皿にトントンっと煙草の灰を捨てた。

僕は放心状態のまま。
何も言わずに制服を強く握った。



「あの……莉子はどこか悪いのですか?」




ちらつく“精神科”という文字。
出来ることなら消してしまいたかった。
するとお兄さんは携帯を取り出す。
今流行りのスマートフォン。
慣れた手つきで操作し、あるページを僕に見せてきた。

それはある病名の載っていた。



「統合失調症。莉子の病名。」



統合失調症。
それは誰にでもなってもおかしくない精神病。
初めて聞く病名に僕は驚きを隠せないでいた。



「えっと……」




「莉子の場合はそんな重くないけど、でも…俺はもう莉子を一人にはできないから…」




そう言って灰皿に煙草を押し当て、ゆっくりと視線をアスファルトに映した。


この人も何かを抱えてる。
そう感じた。




もし僕が莉子を救えないのなら、莉子が前僕に言ったように、ただ隣にいるだけでもいいんじゃないかと思うんだ。




< 121 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop