この世界は残酷なほど美しい
お兄さんは静かにこう言うと、灰皿にトントンっと煙草の灰を捨てた。
僕は放心状態のまま。
何も言わずに制服を強く握った。
「あの……莉子はどこか悪いのですか?」
ちらつく“精神科”という文字。
出来ることなら消してしまいたかった。
するとお兄さんは携帯を取り出す。
今流行りのスマートフォン。
慣れた手つきで操作し、あるページを僕に見せてきた。
それはある病名の載っていた。
「統合失調症。莉子の病名。」
統合失調症。
それは誰にでもなってもおかしくない精神病。
初めて聞く病名に僕は驚きを隠せないでいた。
「えっと……」
「莉子の場合はそんな重くないけど、でも…俺はもう莉子を一人にはできないから…」
そう言って灰皿に煙草を押し当て、ゆっくりと視線をアスファルトに映した。
この人も何かを抱えてる。
そう感じた。
もし僕が莉子を救えないのなら、莉子が前僕に言ったように、ただ隣にいるだけでもいいんじゃないかと思うんだ。