この世界は残酷なほど美しい



「俺が莉子の笑顔を奪ったんだ。」



そうやって莉子のお兄さんは語りはじめてくれた。
僕は静かにそれを聞いていた。


安野健太は当時18歳だった。
莉子はその時11歳だった。
親の再婚が決まり、義理の父親がアメリカで仕事を始めるらしく、家族揃ってアメリカに行くはずだった。
だが俺は受験生。
だから俺だけ日本に残り、莉子はアメリカへと行った。


俺たちは仲の良い兄妹だった。莉子はよく俺の後をついて来て甘えん坊で、よく笑う女の子だった。


月に1度の電話に莉子は大喜びをしていた。
でもそれは半年くらいで…
半年が経った頃、莉子は「うん」しか言わなくなった。



そして大学も受かり、学校が無くなった俺はアメリカに遊びに行くことにした。
久しぶりの家族。
いきなり訪れたらきっと莉子は驚くだろうな。


そう思いながらインターホンを鳴らした。



だけど以前のような明るい家庭はここには無かった。




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