この世界は残酷なほど美しい



病院で何をして遊んだのか。
仲良くなったきっかけとか。
そんな些細で単純なことすら思い出せない。

母さんが死んだという事実がショックすぎて、僕の過去はそれがだいたい占めている。
それと父さんへの遺憾。

だから奈緒子の存在は思い出せても何をしたのか、どうしたのかが頭の中に浮かんで来なかった。



「……奈緒子、僕は」



一歩後退りをして奈緒子から離れた。
輝く瞳で見つめられたらおかしくなりそうだったから。




「覚えてないの?」




「……ごめん」



「酷いね。あんなにも仲良く遊んだのに。」




「だから…その。教えて欲しいんだ…」




「何を?」




「僕たちが過ごしてきた過去を」




きっと、描けると思うんだ。
あの時の風景を。
母さんが生きていた世界を。
そして感情を。
父さんに対する感情を。

今なら間に合うと思うんだ。


真っ黒で塗りつぶしてしまった過去を、屈託のない純白で色を取り戻したい。






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